2008年08月31日

「舞人五井輝を偲ぶ会」に参列した

 今年の5月10日、63歳で舞踏家の五井輝さんが癌で亡くなった。ご本人の希望で、葬儀は身内だけで終えたという。
 きょう、踊りの仲間である武内靖彦さん、大森政秀さん、田中泯さんの呼びかけで中野富士見町のPLAN−Bで『舞人五井輝を偲ぶ会』が行われた。
 参列者全員の献花のあと、舞踊批評家の合田成男さんはじめとする何人かの方がスピーチされ、五井さんの舞台のスライドやビデオが上映された。その後、合田さんの音頭で献盃がおこなわれ、お酒や料理が振舞われた。参加者は静かに、あるいは少しにぎやかに五井さんを偲んだ。
 
 スピーチの中でも話題になっていたが、PLAN−Bは80年代に五井さんの『納屋シリーズ』の公演がおこなわれた場所であり、土方巽さんが五井さんの踊りを初めて見た場所でもある。土方さんが五井さんの踊りを見た現場には私も立ち会っているので、そのことについて少し書いておく。
 その頃私は、PLAN−Bで行う映像と談話によって土方巽さんと暗黒舞踏を紹介する企画のため、目黒のアスベスト館に通い、たくさんの写真やポスターやチラシそして小道具などを、スライドと8ミリで複写したり撮影したりしていた。その日はたぶん早めに作業が終わったのだと思う。木幡和枝さんもいた。土方さんが「きょうはPLAN−Bでなにかやっていますか」と尋ねてきた。木幡さんが五井さんの踊りがあることを伝え、五井さんについて手短に紹介した。「じゃあ見に行こう」ということになり、土方さんと木幡さんと私とでタクシーに乗り、アスベスト館からPLAN−Bに向かった。その、あまりのフットワークの軽さに驚いた。あるいは、土方さんは事前に五井さんについてなんらかの情報を得ていて、その日公演があることを知っていたのかもしれないが、今となっては本当のところはわからない。
 踊りが終わると、土方さんは真っ先に拍手をし、延々と拍手をし続けた。
 きょう偲ぶ会で木幡さんとこのときのことを話したら、「そのあとどこで飲んだっけ」と聞かれた。当時の状況を考えると、1階にあったTHE SHOPでまず飲み、それから河岸を変えたのだと思う。私はしばらくして帰ったのでわからない。五井さんと土方さんは夜通し語り、飲んだはずである。
 次の日、作業のためにアスベスト館に行き芦川羊子さんと準備をしていると、土方さんが木幡さんといっしょに戻ってきて、「芦川、きのう素晴らしいものを見たぞ」と、五井さんの踊りについて語りだした。
 映像と談話による土方巽と暗黒舞踏の企画は、1983年の1月と3月に行われているので、その前にあった五井さんの公演を調べると1982年の12月27日か、83年の2月22日のどちらかである。
 
 偲ぶ会に参列して感じたのは、油断していたということだ。
 同じジャンルのアーティストの活動は、できるだけリアルタイムで追いかけるようにしている。それでも見逃すことは多い。だが、異なるジャンルとなるとついおろそかになってしまう。
 私は、舞踏の世界に五井さんがいることに安心していたようだ。様々なジャンルに何人かそういう人がいる。この世界にこの人がいれば大丈夫だといったらおかしいが、どこかでそんな信頼感を勝手に寄せているアーティストが。信頼することで安心してしまい、その人の活動をフォローせずに済ませてしまう。
 さらにいえば、地道に活動を続けている人の努力を忘れ、地道にやり続けているからいつでも見れると、どこかでそんな油断をしてしまっている。
 五井さんのスライドとビデオを見ながら、この人の踊りはもう二度と見ることができないのだということを思い知らされた。
 ひとりの生きたアーティストが発する情報の総体は、どんな記録媒体によっても代替できない。ビデオや写真は、そのアーティストの業績を記録しているのではない。その存在が消滅したことによって生じる情報の欠落を記録しているのである。情報の欠落の上に組み立てられるのが、歴史である。
 今月始めに画家の藤山貴司さんが亡くなった。大事だと思う人の活動は、きちんと見ておかなければならないし、話しておかなければならないと思い知らされた8月だ。

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posted by 黒川芳朱 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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