いまはアニメーションの共同制作をしているので、生徒ひとりひとりが黙々と絵を描いている。黙々と描いているはずだが、手作業を続けていると次第におしゃべりになってくる。黙々がガヤガヤになってくる。
今日中にすべての動画を描き上げるようにいうと、ひとりの女の子が時間を止めたいと言い出した。
「時間よー止まれ」
「先生のりすぎ」
「そういうドラマが昔あったんだよ」というと、生徒たちが興味を持ち出した。そこで少し思い出話。
「原作は手塚治虫のマンガでね、題名なんだっけなあ。あっ『ふしぎな少年』だ。たしかカッチンというあだ名の少年が、時間を止められるんだ。こうやって両手を前でクロスさせて、時間よー止まれっていいながら右腕を前に伸ばすとまわりの時間が止まるんだ」
ただ、まわりの人がストップモーションになってじっとしているだけなのに、その映像が不思議で子どものおれはすごくどきどきした。くどいようだが、ただ人が止まっているだけなのに。
たしかはじめに見たころは幼稚園児で、なんで時間が止まると人が止まるのかわからず、中学生の姉に説明してもらったように思う。
のちに、ルネ・クレールの『眠るパリ』をみると、ある科学者の発明で時間が止まり人々がパリの街中で硬直しているではないか。イメージの源流を見た思いがした。
さて、教室に戻る。私が『ふしぎな少年』の説明をし終わると同時に、さっき時間を止めたいといった女の子が立ち上がり、『時間よ、止まれ』と叫んで手を左前方につきだし、硬直したようにじっと動かなくなった。
「おい、お前が止まってどうするんだ。早く描け」