2009年09月18日

ゆずのシングル

 金曜日なので某公立高校で授業。
 芸術科の3年生で映像の授業を選択している生徒が対象。共同制作のアニメーションが完成に近づいている。分担作業なのですでに自分の仕事が終わっている生徒は、卒業制作の企画を立て始める。
 一人の女子生徒が、ごく普通の子の日常的な世界を描いたアニーションを作りたいという。まずなんでもいから思いつくことを絵や言葉でメモしてごらんという。芸術科なのでみんな絵を描くのは得意だ。せっせと女の子の絵を描き始め、水彩色鉛筆で色を塗り始める。
 そこでちょっとアドバイス。この子の年齢は? 家族構成は? 得意学科は? 苦手な学科は?などと質問してみる。するとうーん、高校2年生、お父さんとお母さんと弟がいる、数学が億位で音楽が苦手、などと答えながらキャラクターを作り始めた。もうひとり卒制の企画を考えていた子が煮詰まり、この子のキャラクター設定に付き合いだす。面白そうに2人でおしゃべりしながらメモをしていく。
「うんと普通っぽい子がいいんだ」
「お父さんの仕事はリーマンだよね」
「ちょっとお金持ち」
「彼氏は中学のときちょっと付き合いそうになった子がいるんだけど、うまくいかなくて、それ以来いない」
「あー普通っぽい」
 だんだんはまってきたようだ。
 そこで私がどんな音楽が好きなのかと質問。
「ゆず」
「あー、普通だね、いいね」
私がさらにどのぐらい好きなのか聞くと「どのぐらいって…」と困っているので、「たとえばCD何枚もってるの」と聞く。
「シングル3枚」
「普通、普通」
 つまりものすごく好きなわけではないらしい。シングル3枚のうち、2枚はTUTAYAで買った中古だという。でも日曜日には何をしているかというとゆずを聞いている。
 ここで私ははっとした。
 私の周りは音楽好きばかりで、シングルを3枚しか持っていない人はいない。だが、世の中には確かにこういう人もいるはずだ。ましてや高校生なら小遣いも限られている。
 
 ここでタイムスリップ。
 ふりかえってみると、父も母も音楽を聴く習慣がなかった。父は若いころは三味線を弾き長唄か何かをやっていたらしいが、レコードを聴くようなことはしなかった。時々ラジオはかけっぱなしにしていたが、かけっぱなしなので特に音楽を聴いていたわけでもない。母はしょっちゅうでかい声で鼻歌を歌っているが、これまた音楽鑑賞などしない。そんなわけでうちにはステレオがなかった。
 ただし、中学のころ英語のソノシートを聞くためにポータブルステレオ買ってもらった。ちゃんと、スピーカーは二つあった。中学のころからラジオの深夜放送を聴き、音楽も聴くようになった。高校生になって、初めてレコードを買った。ジョン・レノンの『ジョンの魂』だ。そのあと『イマジン』を買い、それからビートルズを集めだした。ビートルズはラジオで聞いていたが、レコードを買ったのはジョンのソロのほうが先だ。
 レコードを集めだしたころは少ないレコードを繰り返し聴いたな。
 
 ここで生徒の設定した普通の女子高生に話はもどる。名前はサエコと決まった。
 世の中には酒を飲む人、煙草を吸う人、スポーツが好きな人、スウィーツが好きな人などさまざまな嗜好がある。酒は好きだけれどたくさんは飲まないという人もいる。スポーツ好きもプロ並みの本格派もいれば、たまにキャッチボールをするだけで満足する人もいる。
 そう考えると、3枚のゆずのシングルを繰り返し聞くことで、満足できる女子高生もいるだろう。私や私の周辺とあまりに隔たりがあったため、シングル3枚と聞いたときは思わず笑ってしまったが、虚をつかれた思いだ。
 日曜日の午前、サエコはゆずを聞きながら何を見ているんだろう。何を感じているんだろう。どんな気持になるんだろう。充実しているんだろうな。
 生徒の作品がどうなるか楽しみだ。


posted by 黒川芳朱 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 体感音楽論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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