第二次世界大戦時のユダヤ人ゲットー、ナチの支配下、収容所行きの列車が来るまでの絶望的で静かな日々。ゲットー内では自殺が絶えない。住民にラジオを持つことは禁止されている。ひょんなことで司令部に入ったときラジオ放送で、ソ連軍が近くまで迫っていると知った主人公がそのことを親しい若者に教える。これが、いつの間にか彼がひそかにラジオを持っているという噂になり、ゲットー中の人々に知れ渡る。主人公は仲間たちに希望を与えるため、仕方なくラジオをもっていると嘘をつき、日々でっち上げのニュースを語る。
ユダヤ人と希望を持つための嘘というシチュエーションは『ライフ・イズ・ビューティフル』を思い出す。また、戦争という極限状況でのラジオといえば『リリー・マルレーン』があった。戦時下のドイツ側の放送で流れた歌が、敵味方を超えて愛唱される。制度をはみ出していく人間、夢、想像力、嘘。
おっといけねえ。ロビン・ウィリアムズとラジオといえば『グッドモーニング・ベトナム』があった。あれも戦場でのラジオだ。
この映画の主人公は善意で嘘をつくわけだが、閉ざされた状況の人々に、あたかも外部の架空の組織とつながりがあるかのような嘘をつき彼らを支配した男もいる。『悪霊』のスタブローキン、そのモデルとなったネチャーエフ。
霊界から新聞が舞い込んでくる『恐怖新聞』なんてマンガもあったな。目に見えない、耳に聞こえないか、形にならないメッセージが新聞というメディアの形をとって現れるのが面白かった。
架空の放送というのはギリギリだなあ。主人公が少女にラジオ放送を聞かせてとせがまれ、彼女の後ろでラジオのまねをするシーンが面白い。芸達者なロビン・ウィリアムズならではだ。
人々の希望を与えようと必死に嘘をつく主人公に、語り部とか詩人というものの原形を見た感じがする。